祖母が孫の貯金を引き出す??
まず、「未成年後見人」について簡単に説明しましょう。こちらは民法のお話です。
未成年後見人は、未成年者に対して親権を行う者がいない場合に選任されます。例えば、早くに両親を亡くした子どもの祖母が未成年後見人になるようなケースが考えられます。
未成年後見人は、未成年者が成人するまでの間、家庭裁判所の監督を受けながら、未成年者の財産を管理し、法律行為について未成年者を代表することになります。
次に、「親族間の犯罪に関する特例」についてご説明しましょう。こちらは刑法のお話です。
配偶者、直系血族または同居の親族の間で、窃盗や横領がなされた場合は、その刑を免除するとされています。たとえば、夫が妻のものを盗む、祖母が孫のものを横領する、といった行為は、刑が免除されることになります。
これは、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控えて、親族間の自律に委ねた方が望ましいという政策的な配慮に基づいたものです。
さて、ここで問題です。
孫の未成年後見人に選任されていた祖母が、共犯者と一緒に孫の貯金を引き出して横領してしまいました。その額約1500万円。
全くの他人同士の関係であれば、これは、まさに業務上横領罪に該当する行為ですが、この祖母は、業務上横領罪として有罪となるでしょうか。
それとも、孫と祖母という親族間の犯罪であるとい理由で、「親族間の犯罪に関する特例」が適用され、祖母は刑を免除されるのでしょうか。
この点が争われた事案について、平成20年2月18日、最高裁判所(第一小法廷)が判断を下しました。
裁判所は、「・・・未成年後見人の後見の事務は、公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、・・・刑法244条1項(注:親族間の犯罪に関する特例)を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。・・・」と判示しています。
妥当な結論ですね。
今回のケースは、未成年後見人の事案でしたが、今後の高齢化社会に向けて成年後見人がどんどん増えていく状況にあります。
親族であるという甘えから、ついつい感覚が鈍ってしまうリスクも否定できない後見人業務ですが、今回の判決は、後見人の責務の重さを改めて認識させたという意味でも、とても有意義であったと思います。
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