反対尋問(2)
裁判では、いろいろな書面が証拠として提出されます。
裁判所に対して、偽造まがいの書面を証拠として出すような人が
いるとは思いたくないのですが、
往々にして、疑問符をつけたくなるような書面が出されることがあります。
かつて、こういうことがありました。
約30年前からの権利関係を示す証拠として、
相手方から「合意書」と題する書面が提出されました。
古い書面なので印字も不鮮明なのですが、その書面にあるように昭和〇年△月×日に有効に作成されていれば、相手方の主張を裏付ける重要な証拠となるものでした。
そして、相手方は、この「合意書」は、タイプライターを使って作成したのだ、と説明していました。
ところが、よく見ると、『合意書』というタイトル部分は、横に長くなっている、いわゆる「横倍角」になっています。
タイプライターでは「横倍角」は打てないわけですから、この書面を作成したのはワープロではないか、ということになります。
本当はワープロで作成した書面を、あたかも、昭和〇年△月×日に作成したことがもっともらしくなるように、タイプライターで作成した、と主張するところに一つ目の矛盾があります。
しかし、反対尋問でそこを追求したとしても、「記憶違いだった、やはりワープロで作成した」言われてしまえばそれまでです。
そこで、すかさず、ワープロメーカーに照会をかけてみたのです。
そうすると、昭和〇年△月×日には、いまだ横倍角を打ち出せるワープロ機はこの世に出回っていないことがわかりました。
ここに逃れられない二つ目の矛盾が判明しました。
ここまでの準備をして反対尋問にのぞむのです。
当方「あなたはこの書面は何を使っ作成されたのですか?」
証人「タイプライターです。」
当方「ずいぶん昔の話ですが、間違いないですか?」
証人「間違いありません。タイプライターで作成しました。」
当方「この書面は昭和〇年△月×日に作成されたとありますが、間違いないですか?」
証人「はい。作成した日付が書いてあるはずですから間違いありません。」
当方「ところで、この『合意書』という題字のところは横倍角になっていますが、タイプライターでは横倍角は出せませんね。あなたが、本当はワープロで作成したのではありませんか?」
証人「・・・・・。そう言われるとワープロだったかもしれません。」
当方「ここで、後に提出する乙第●号証を示します。これはワープロ会社からの調査報告書ですが、これには、あなたがこの書面を作成したと主張している昭和〇年△月×日には、ワープロはまだ発売されていないと記載してあります。これでも、あなたは、この書面が、昭和〇年△月×日に作成されたと主張するのですか?」
証人「・・・・・。」
当方「反対尋問を終わります。」
最後の反対尋問で、それまで証人がもっともらしく証言してきた事実が、ガラガラと崩れてしまいました。
裁判の結果は推して知るべし、ですね。
偽証しないと宣誓して証言台に立つ証人も、真実ばかりを証言しているわけではないのです。
人間の内心とは計り知れないものだなあ、とその度に思い知らされることにもなります。
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