時給800円
資力のない被告人は国選弁護制度を利用することができます。
これは憲法37条で保障されている権利です。
ところで、国選弁護制度に携わる弁護士の報酬はどのくらいかご存知でしょうか。
現在、地裁事件で平均的な自白事件の場合(接見回数3回、公判回数2回)、約7万3000円とされています。
この額は妥当と思われますか?
国選弁護士の業務としては、接見に行ったり裁判に出席するだけではなく、記録閲覧・謄写、記録の検討、証人打ち合わせ、示談交渉、尋問事項等の事前準備、弁論要旨の作成etc.で、少なくとも約13時間はかかるとされています。これを時給に換算すると5615円となり、この額では、事務所を経営していくだけの費用は賄えないとして、弁護士会としては、報酬増額を求めた意見書を提出しています(2007年8月23日日弁連意見書「国選弁護報酬改善の基本方針」)。
かつて私が担当した国選弁護事件を振り返ると・・・。
否認事件であったこともあり、接見回数は数十回、深夜に及ぶ複数回の現場検証に加え、数十頁に及ぶ弁論要旨の作成、複数の目撃証人との面接、証人尋問事項の準備etc.・・・その事件に要した時間で、後日支払われた国選弁護報酬額を割ってみたら、時給800円を切っていたことがありました。
正直、かなりしんどい事件でした・・・。物理的な大変さはともかく、被告人の一生を左右するという精神的なプレッシャーが相当大きかった割には、経済的にも身銭を切るような事件でした。
あれだけ大変な思いをしても、マクドナルドでアルバイトしていたのと同じだ・・・、と思うと、ちょっと切ない思いになったことを覚えています。
今朝のNHKの番組でも取り上げられていましたが、裁判員制度がスタートすると、集中審理や公判前準備手続により、弁護士の負担も相当程度増えます。
しかしながら、国選弁護報酬増額の具体的な見通しは立っていません。
現状の国選弁護報酬で、さらに大変になる弁護活動を適切にやろうと思っても、「思い」だけでは続かないと思われます。
逆に、現状の国選弁護報酬に見合う活動しかしないと割り切るなら、それは弁護活動の質の低下を意味します。
裁判員制度の趣旨は素晴らしいとしても、制度を支える土壌が整っているとはまだまだいえないように思います。
このところ、裁判員制度を意識してか、主人公が弁護士のドラマが複数放映されています。
この類のドラマは、大抵、華やかに事件を解決するところが強調されていますが、実際の弁護士の仕事は、そんなドラマのような格好いいものではありません。コツコツと地味な作業です。
TVドラマにしても、裁判員制度にしても、「光」の部分ばかりではなく、「影」の部分もきちんと伝えていく必要があると思います。
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